RISE with SAPの基盤としてのクラウド 信頼性と柔軟性を解説

2021年年初にSAP社から発表された「RISE with SAP」の導入・移行が加速しています。RISE with SAPは、SAP自身がアプリケーションのライセンス費用+保守費用+クラウド環境費用などSAPを利用する上で必要な費用をサブスクリプション形式で取り纏めて提供しているマネージド・サービスです。SAP社によると既存SAPユーザ企業がRISE with SAPへ移行した場合にTCOが最大で20%削減可能と説明しています。

そのコスト削減効果に寄与する1つの要素がSAPを稼働させるクラウドとなります。今まではSAPを稼働させる基盤としては自社調達が必要なオンプレミスが一般的でしたが、現在では殆どのSAPユーザ企業がクラウドを選択しています。何故、AWSなどのクラウドにSAPを移行する企業が増えているのかを解説していきます。

(注:本ブログではRISE with SAP S/4HANA Cloud, private edition(private edition)を対象として解説します)

世界と日本におけるクラウド市場はどうなっているの?AWSの実績も紹介

日本においてRISE with SAPを使用する場合は主にAWS(Amazon Web Services)、Azure(Microsoft Azure)、GCP(Google Cloud Platform)いずれかのハイパースケーラーを選択する事が可能です。(SAP社提供のデータセンターも選択可能ですが稀なケースの為に対象外とします)米Synergy Research Groupが2022年2月3日(現地時間)にリリースした世界におけるクラウドプロバイダー(ハイパースケーラー)別市場シェア動向によると、2021年のクラウド市場は1780億ドル(日本円換算:24兆円)となり、前年比37%増と大幅に増加しました。また、ハイパースケーラー別の市場シェアは、AWSが33%、Azureが21%で、上位2社で半数を占めています。

クラウドプロバイダー別市場シェア動向 2022年2月発表

(出典元:米Synergy Research Group、2021年第4四半期(10~12月)および2021年間のクラウド市場規模と、主要クラウドプロバイダーの市場シェア)

一方、日本おけるクラウドプロバイダー(ハイパースケーラー)別市場シェア(2021年第4四半期)に目を向けると、1位 AWS、2位はMicrosoftとなっていますがGCPは富士通、NTTに次いで5位となっていることがわかります。RISE with SAP環境におけるハイパースケーラーのシェアは公表されていませんが、同様の傾向、または更に顕著な傾向になっていると推察されます。RISE with SAPのハイパースケーラーを選択する上で日本(世界)市場における実績は一つの重要な選定理由となります。

https://image.itmedia.co.jp/news/articles/2204/04/dy_fig_01.jpg

(出典元:米Synergy Research Group、2021年第4四半期(10~12月)アジア太平洋地域におけるクラウドインフラ市場についての調査結果)

RISE with SAPの柔軟性・パフォーマンス

RISE with SAP環境で使用できる仮想インスタンスはSAP社より認定を受けている構成である必要があります。その認定構成の選択肢が多い方が自社にとって適切なサイズを選択できる可能性が高くなります。また、適切なサイズでRISE with SAP環境を構築できるということは、コストと適正化にも繋がります。

SAP Application Performance Standard(SAPS)という言葉をご存知でしょうか? SAPSはSAP環境におけるシステム構成のパフォーマンスを表す、ハードウェア(クラウド)に依存しない測定単位です。業務要件からSAPS値を計算し、そのSAPS値に適したサイズの仮想インスタンスを選択する事になります。各ハイパースケーラーから、認定仮想インスタンスの構成毎にSAPS値が公表されていますので、費用対効果が優れているハイパースケーラーを選択します。

一方で、SAPデータは本稼働年数や使用モジュール、使用拠点の拡張にともなって、トランザクション数やデータ容量が増加していきます。その時に柔軟に構成を変更できることも重要な要素となります。

例えば、現在使用している仮想インスタンスのメモリーサイズを2TiBから増やしたいと考えた場合、システムの停止時間が1日必要となるようでは柔軟性が高いとは言えません。

また、2TiBより大きな構成を選択したい場合にメモリーが4TiBしか選択できないようではオーバースペックでコスト高となってしまいます。そしてクラウドなので使いたい時に自由に適切なサイズの仮想インスタンスを選択できると一般的には考えられていますが、クラウドも突き詰めていくとデータセンターに設置されているハードウェアです。そのリソースが不十分な場合には適切な仮想インスタンスが選択できないという状況に陥ります。

このような状況にならないように潤沢にリソースを提供できるハイパースケーラーを選択する必要があります。

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RISE with SAPの信頼性

RISE with SAPは企業にとって重要な基幹業務システムです。信頼性やセキュリティに不安があるハイパースケーラーで基幹業務システムを運用することは企業にとって大きな経営リスクに繋がります。

まず、信頼性ですが、RISE with SAPはミッションクリティカルなオペレーションを実行しているため、高可用性(HA: High Availability)は考慮すべき重要な要素です。予定外のダウンタイムが発生すると、生産性や経済的に大きな影響を与えることになります。

2015年のIDC調査によると、ミッションクリティカルなアプリケーションのダウンタイム/時間のコストは、50万ドルから100万ドル(日本円換算:6800万円から1億3000万円)の間です。障害の発生回数が少ないのは当然として、発生時の復旧時間が短いハイパースケーラーを選択することが重要です。しかし、100%障害が発生しないハードウェアは世の中に存在しません。

その障害発生時に計画外の停止を最小限にする為にHA構成を組みます。具体的には、障害の検出と回復を自動化して、または復元力の高いクラスターを組む必要があります。

各ハイパースケーラーでは稼働状況をダッシュボードで公開しているので一度確認しておくと参考になるかも知れません。

【参照元URL】

  1. AWS https://health.aws.amazon.com/health/status
  2. Azure https://status.azure.com/ja-jp/status
  3. GCP https://status.cloud.google.com/

さらに、事業継続性の要件から災害対策(DR: DR-Disaster Recovery)も検討する必要があります。異なるハードウェアと異なる場所で、サイトの災害などの計画外の大規模障害からデータを保護します。HAとDRを検討する上でRPO(Recovery Point Objective: 目標復旧時点)とRTO(Recovery Time Objective: 目標復旧時間)という二つの指標で語られるケースが多いかと思います。RPOとは、障害発生時に、過去の「どの時点まで」のデータを復旧させるかの目標値となります。言い換えるとどの程度データ損失が許容できるか?と言う事になります。

また、RTOは、障害発生時に、「どのくらいの時間で(いつまでに)」 復旧させるかを定めた目標値となります。言い換えると、「システム停止やサービス中断が許容できる時間」とも言えます。これらの指標、業務要件によって、システムのアーキテクチャやシステム運用が決定され、それに伴うコストも変わってきます。3社のハイパースケーラーを比較した場合、AWSのみがRISE環境でRPOを 0分で提供、AzureとGCPではRPOは30分での提供となります。

まとめ

RISE with SAPを新規で導入されるケース、現行SAP ERP6.0からRISE with SAPに移行するケースいずれでも、AWS/Azure/GCPをハイパースケーラーとして選択する必要があります。その際、選定のポイントとなる代表的な項目について説明してきました。

一方で、既にAWSやAzureを他の領域で導入済という企業ではクラウド環境を統一されたいという理由でRISE環境も同じクラウドに決定するケースも存在します。また、マルチクラウド戦略を提唱している企業は敢えて既導入済のクラウドとは違うクラウドを決定される場合もございます。

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